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次代への羅針盤

次代への羅針盤

真の科学技術創造立国となるために

日本の科学界は2015年も二人のノーベル賞受賞者を輩出した。 日本の科学技術が世界のトップレベルにあることは誰もが認めるところだろう。 だが、自らもノーベル賞受賞者である野依良治氏は、「日本の科学はもっと頑張らねばならない」と叱咤する。日本の科学界に対する提言・要望、そして次代を担う若い科学者たちへのメッセージを今号と次号の2回にわたってお届けする。

Ryoji Noyori

野依良治[前編]

国立研究開発法人科学技術振興機構
研究開発戦略センター センター長

マネージ力が問われている

 日本の科学技術は、世界のトップレベルにあると思います。日本人のノーベル賞受賞者が相次いでいることも、その証左でしょう。2015年も大村智先生と梶田隆章先生がノーベル賞を受賞されました。私自身、湯川秀樹先生の日本人初のノーベル賞受賞をきっかけに科学に興味を持つようになった経緯があり、喜ばしい限りです。

 しかし、日本が科学技術創造立国を標榜するのであれば、個人だけでなく、社会全体としてもっと頑張らなければならないことがたくさんあります。科学も技術も継続的に発展させなければいけませんが、そのためにはまず若い人を育て、力いっぱい活躍してもらえるようにすることが必要です。

 野球は、選手だけでは試合ができません。コーチや監督、さらにゼネラルマネージャーや球団経営者、あるいはコミッショナーなどがいて初めて、プロ野球という世界が成立するのです。

 科学の世界も同じこと。政治、行政はじめ指導的立場にいる人がしっかり研究社会をマネージしなければいけません。研究者である若い人にすべてを丸投げしているようでは、科学技術創造立国も成り立ちません。

 科学技術は、“人々の豊かな人生”“国の存立と繁栄”“人類文明の持続”のためにあると思います。しかし科学の意味、目的は、時代とともに変わってきた面もあります。

 かつて科学は、知識をつくるためにありました。ニュートンとかアインシュタインといった天才たちが、それまでなかった新しい知識や理論体系をつくりあげたのです。つまり、知識のための科学、進歩のための科学であったと言えます。

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