次代への羅針盤
第3世代有機EL素子開発で世界をリード
安達千波矢
技術にできないことはない
今年、TADF材料の実用化を目指す九州大学発のベンチャー(株式会社Kyulux)が誕生しました。私はそのサイエンティフィック・アドバイザーになっています。
しかし、研究とビジネスは別世界。ベンチャーの経営に直接関わるつもりはありません。それよりは次の研究をしたい。技術が歩みを止めることはありません。第4世代、第5世代の材料も必ず出てきます。実際もうその探索を始めており、また有機半導体レーザーの研究にも着手しています。これはやればやるほど難しいということが少しわかってきたところですが……。
でもだからこそ面白い。やるだけの価値がある。やってやろうという気になるのです。
今、九州大学大学院の教育プログラム(リーディング大学院・分子システムデバイスコース)では、異なる研究室の学生を3人ひとつのチームとして、3年間かけて斬新な研究提案をさせるプログラムを推進しています。週1回議論しあい、お互い教えあう。そこから面白いテーマが生まれてくるのではないか。本当はこういった取り組みをワールドワイドにやったらいいと思っています。
私は、技術にできないことはないという強い信念をもって研究を進めてきました。できると思ってやることが大切です。これは無理だと思った瞬間、本当にできなくなってしまいますから。
若い人たちも一所懸命やっていると思います。ただ、もっと常に新しい視点を取り入れてほしい。シミュレーションとか量子化学計算などコンピュータを徹底して使うなど、研究の手法も新しい方向へどんどん変えたらいいと思います。
それから少なくとも2つの分野でプロフェッショナルになってほしい。トラディショナルな固体物性とか有機合成だけを研究するような狭い世界にひとりで閉じこもっていても世界は拓けないと思います。
今、フラットパネルディスプレイの分野では一部の企業が圧倒的な支配力を持っています。アプリケーションと材料とデバイスの研究者がスクラムを組む、優れた人同士がグループを組んで研究するなど、新しい試みを進めていかないと現状を打破できない状況にあります。未来社会へのイメージを膨らませ、できると信じて新しい夢に是非チャレンジしてほしいと思います。
狭い世界に閉じこもっていても突破口は拓けない。2つ以上の分野でプロフェッショナルになることを目指してほしい
安達千波矢[あだち・ちはや] 九州大学大学院工学研究院応用化学部門主幹教授 最先端有機光エレクトロニクス研究センター長 1963年、東京都出身。中央大学理工学部物理学科卒業。九州大学大学院総合理工学研究科修了。工学博士。民間企業に就職した後、1999年、米プリンストン大学の研究員となり千歳科学技術大学助教授を経て、2005年から現職。大学院時代から一貫して有機EL材料の開発に取り組む。2012年、既存の蛍光材料と新たな発光現象「TADF」を起こす新材料を組み合わせた発光効率100%の有機ELデバイス開発に成功し「ネイチャー」誌に発表して、世界を驚かせた。
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