ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

第3世代有機EL素子開発で世界をリード

安達千波矢

ついに新しい発光原理を実現

 帰国後は千歳科学技術大学の助教授に着任し、第3世代の発光材料の開発を少しずつ始めました。このときの一重項と三重項励起状態のエネルギーギャップを小さくするというコンセプトでの分子設計は、九州大学に移ってきてからも続けました。今であればスーパーコンピュータを使った計算で最適な分子を探すことも容易にできますが、その頃は蛍光とリン光という2つの発光スペクトルが近いものをひたすら探すという方法でした。そしていくつか適合するものが見つかるようになり、やがてあるときそのELの外部発光効率が5.3%を示しました。普通の蛍光材料ですと5%を超えることはまずありえません。その時の0.3%という値はもしかしたら誤差かもしれません。でもこれでいけると確信を持ち、研究室のほぼ全員で新しい材料の探索に取りかかりました。すると狙いの新しい材料がどんどん見つかるようになりました。一重項と三重項の励起エネルギーの差が小さな分子を設計し、三重項励起子を一重項励起状態にアップコンバージョンさせるというコンセプトがよかったのです。もちろんこのギャップは数式できちんと説明することができます。私たちはついに熱活性化遅延蛍光(TADF)と呼ぶ新しい発光原理での高効率有機ELデバイスを実現したのです。

 今、私の研究室には新しいTADF材料が約300個あります。こんな分子でいいのかと思うくらいシンプルな構造ですが、自由に設計できる有機化合物には無限の可能性があります。これで炭素と窒素と水素だけでできる有機EL素子が可能になります。イリジウムのようなレアメタルを使う従来のものと比べれば価格は10分の1くらいにできると思います。

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