One Hour Interview
美しい構造の分子を追い求めて
雨夜 徹
企業との研究で社会貢献
しかし、スマネンも今のところ、社会貢献という観点においては特別な機能は見つかっていないんですね。合成が難しい新しい分子をつくっても、それが何の役にも立たないということがありうるわけですか。
もちろん、ありえます。でも、私はそういう研究を受け入れるアカデミックの世界の空気感がとても好きです。
近年はアカデミックな基礎研究にも、社会的な還元を求める風潮が強くなっています。
自分のつくった化合物が社会の役に立ったらうれしいという気持ちは、私の中にもあります。導電性高分子の研究はそうしたモチベーションで取り組んでいるもので、松籟財団の助成をいただいた「n型導電性高分子を指向したロタキサン型ポリアニリンの開発」もその1つです。
その研究は現在も続けておられるのでしょうか。
今はストップしています。というのも、名古屋市立大学に来て自分の研究室を立ち上げたときは、私と学生1人しかいなかったんです。日本の大学の研究室は、教授のほかに准教授や助教もいるのが一般的ですが、本学の理学研究科はアメリカンスタイル(Principal Investigator制)で私の研究室には准教授や助教がいません。だから戦力が整うまでは研究テーマを絞らざるをえませんでした。今は学生が8人いますが、もう少し戦力が整ったらその研究もできるだけ早く再開したいと考えています。
導電性高分子については企業との共同研究ということでしたが、共同研究の難しさはありますか。
本当は成果が出たら学会などでどんどん発表したいのですが、知的財産の問題があるため、難しいところがあります。だから学生を付けた思い切った研究がしにくい点が悩みです。しかし自分の分子が世に出て社会に貢献するという夢を実現するためには、やはり企業との共同研究が必要だと考えています。