ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

化学の視点から、二次電池材料を開発

𠮷川浩史

100~200年残る研究をしたい

オールMOFということではなくても、この材料が実用化できるのはどれくらい先になりそうですか。

 ウーン……、いろいろクリアしなければならない工程もありますから、10年とかそれくらいはかかるでしょう。

先生の研究室ではほかのテーマも扱っておられるのですか。

 今はほぼ電池関連ばかりですね。電池に重点を置き、正極、負極、それから固体電解質の3つに関していろいろ研究しています。材料になる物質は無限にあるものだと思っています。MOF以外にも、もっと有機二次電池に近いような材料も扱っています。そういう材料を正極に使えば、何かが起きるかもしれない。常にそういう夢を抱きながら取り組んでいます。

これから先、まだ相当長い研究者人生があるわけですが、研究者として極めたいゴールはありますか。

 自分が生きている間に世の中の人が手に取ってくれるようなものができたら楽しいと思います。ですが、僕らの仕事は基本的に論文として残ります。僕たちは今でも1800年代の論文を読むことができます。ですから100年後の研究者が僕の論文を読んで、「あの時代にこういう研究をしている人がいたんだ」と感銘を受け、それをさらに発展させていってくれれば、僕としては非常にうれしいですね。音楽とか絵画などの芸術のように、100年、200年残る研究をしたいですね。

未来の電池はどういう方向に進むとお考えですか。

 2つの方向が考えられるのではないでしょうか。1つは、生体にやさしくポータビリティなもの。例えば人間の体に貼り付けて使うような電池ですね。今、私たちが研究している材料はそういうものにも使える可能性があります。ワイヤレスで充電できれば、埋め込み型の人工心臓などにも使えるかもしれません。もう1つの方向性は、発電所でつくった大容量の電気を蓄えるようなものでしょう。現状の送電線網は非常にロスが多いのですが、発電所のすぐ横で電気を蓄えておいて、それを運ぶというのもありだと思います。いずれにせよリチウムイオン電池をはじめとする二次電池は、これからますます重要な蓄電デバイスになっていくのではないでしょうか。

関西学院大学理工学部 先進エネルギーナノ工学科准教授 𠮷川浩史[よしかわ・ひろふみ] 1975年、奈良県生まれ。東京大学理学部化学科卒業。同大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了。理学博士。名古屋大学大学院物質理学専攻助手、同助教を経て2015年4月より現職。ポーランド科学アカデミー物理化学研究所、独ミュンスター大学物理化学研究所での研究歴もある。読書が好きで、中学生の頃から化学に興味を持つようになった。教員としては「学生が自発的に考えるように仕向ける」ことを大事にしている。研究に行き詰まったときは音楽を聴くことが多い。クラシックだけでなくロックも聴くとかで、以前はロックフェスなどにもよく行っていたという。

[第35回松籟科学技術振興財団研究助成 受賞]

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