伝説のテクノロジー
キュウリ生産
農業・田口則男さん
雨ざらしで1年5カ月かけ発酵
「堆肥づくりは、見よう見まねで始めました。集めた松葉に石灰窒素を混ぜて発酵させたり、いろいろ試しましたが、今は米ぬかを混ぜています。1年5カ月ほどかけて発酵させると、いい堆肥になります」(田口さん)
従来、松の葉は堆肥に適していないとされていた。油分が多いため発酵しにくい、松葉を使った堆肥は酸性度が高くなる、などがその理由だ。しかし、松葉を使って堆肥を試作すると、思っていた以上に野菜づくりに適していることがわかった。美浜町農林水産建設課主事の志賀皓太さんは、次のように語る。
「試作した堆肥を民間の土壌分析会社などに分析してもらったところ、特に問題はないということでした。実際、県にお願いした発芽試験でも、80点以上の評価で合格しました」
松葉堆肥は一般的な堆肥と比較して陽イオン交換能が高く、作物の生育がよくなるという報告もある。松葉堆肥をつくる取り組みが、本格的に始まった。
煙樹ヶ浜の松林では年に数回、松の落ち葉を集める作業を行っている。美浜町では毎年2月の第2日曜日を「松の日」としており、このときは町内の小学生などおよそ200人が参加する一大イベントになる。またブランド研究会に参加している農家が折りを見て集めているほか、台風により大量の葉が落ちたときなどにも松葉かきを行う。
集めた松葉は米ぬかを混ぜたのち、発酵させる。そして発酵を促進するため年に2回、たいてい1月と5月に重機を使って攪拌する。2回目の攪拌時にもみ殻の堆肥を混ぜ、熟成するのはその約1年後。この過程は、すべて屋外で行われる。
「屋外で雨ざらしにしていると、松の葉に含まれている油分が流れ出ていいようです。また、地面に直接置いておくと、土中のバクテリアなどの働きで発酵が促進されるようです。完全に熟成すると松の葉の形はまったくなくなり、土のようになります」(田口さん)