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伝説のテクノロジー

日本独自の鍛造(たんぞう)技術で鉋(かんな)をつくる

伝統技法と近代製法を融合して鉋をつくる魚住徹さん。地金に使っているのは明治中期以前に英国でつくられた錬れん鉄てつだ。日本独自の技法が英国の鉄と巡り合うことで、切れ味鋭い播州三木の名鉋が生まれたのだった。

鉋職人魚住 徹さん

左から、野々村俊一工場長、魚住さん、坂本光さん

地金と鋼の2層構造

 ちょっと見ただけではわからないが、鉋の刃は2層構造になっている。柔らかいが粘りのある地金に、硬い鋼を鍛接し、焼いて叩いて1枚の刃にしているのである。

 「海外の刃物はオールスティールの1枚もの。日本の刃物は合わせ刃物というのが特徴です。柔らかい地金の部分があるので研ぎやすくなるのです」

 1947年創業の株式会社常三郎3代目社長、魚住徹さんが言う。

地金を鍛造中の魚住さん。写真提供:神戸新聞

 地金となる錬鉄を約1300℃の火で熱し、ハンマーで叩いて板状に延ばす。一度自然冷却したらその地金と鋼を再び高温で熱し、焼いて叩いてひとつにしていく。これが鍛造の工程だ。

 「夏場には室温が40℃を超えます。でも火花が飛ぶので半袖を着ることはできません。腰痛があるため今は月に2回程度しか鍛造はしていません。しんどい作業です」

 鍛造で最も神経を使うのは、温度だ。温度が高すぎると鋼の組織が壊れてしまう。低すぎると地金とうまくくっつかない。高温で熱せられた鉄の色を見てその温度を判断する。焼き入れや焼き鈍(なま)しのときも同様だ。地金や鋼の性質はその時々によって違うので、温度計で測ればできるというものではない。色を見分ける目と、勘、経験が物を言う。

 「温度が判断できるようになるまでは4~5年かかりました。でも今でも時々失敗します。全然まだ技を究めるというレベルではありません」

 地金に使っているのは明治中期以前に英国でつくられた錬鉄だ。かつてはこの錬鉄が鉄道のレールや船の錨の鎖などに使われていた。フランスのエッフェル塔に使われている鉄骨も多くはこの錬鉄だそうだ。

 当時は燃料に木炭や薪を使っていたため、炉内の温度が鉄の融点まで上がらなかった。そのため半溶融状態で精錬せざるを得ず、粒子が粗いうえに不純物の多い錬鉄しかつくれなかった。しかし、まるで軽石のように「す」がたくさんあるこの錬鉄こそが、鋼と鍛接するにはちょうどいい。

 「硬い鋼とよくくっつき、研ぎやすい刃ができるのです」

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