伝説のテクノロジー
セルラーゼに魅せられ、氷河期を乗り越えて続けた研究
森川康さん
ただ一人日本から参加
だが、森川さんは澱粉系バイオマスに懐疑的だ。
「人間はセルロースを消化分解することができません。つまり食べられないのです。でも、ブドウ糖は食べられます。地球上の人口は70億人を超え、食糧危機が深刻になっている現在、とうもろこし、小麦などはバイオマスとしてエネルギーに変換するより、そのまま食糧として利用した方がいいのではないでしょうか」
木は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンで構成されている。このうちセルロースとヘミセルロースは、セルラーゼで分解して糖化する。森川さんはそのセルラーゼ生産や糖化を主に研究している。1980年からは通産省(現経済産業省)による新燃料油開発技術研究組合がスタートすると、協和発酵から参加し、キシロース発酵性酵母の探索やセルラーゼ高生産株の構築などに心血を注いだ。
「セルラーゼの生産にはトリコデルマ・リーセイという真菌を使っています。これは太平洋戦争のときに米軍がブーゲンビル島で採取した野生株を、米陸軍の研究所がセルラーゼの生産をするように改良したものです。石油ショックのころは、世界各国でこのトリコデルマ・リーセイの変異株を作る研究が盛んに行われました」
そう語る森川さん自身も1983年には、PC-3-7という変異株を開発している。そして1993年には、米国で開かれた第1回アメリカバイオマス会議に参加した。
だが、バイオマス会議の参加者リストを見て森川さんは目を疑った。世界約60カ国から900人ほどの研究者が集まったその会議に日本から参加したのは、なんと森川さんただ一人だったのだ。
実は石油ショック後、1バレル、50~60ドルに高騰した原油価格は、その後徐々に値下がりしていった。1987年ごろには1バレル18ドル程度にまで下がっていた。それとともに日本では、バイオマス研究の熱も冷えていった。値下がりしたのであれば、今までどおり石油エネルギーを使えばいいという機運になってしまったのだった。通産省の研究組合も、96年頃には解散していた。