ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

無理だと思われることに挑戦してこそ有機化学だ

茶谷直人

有機化学が世界を支えている

 結果として今は、若い研究者がじっくり腰を据えて研究することが難しくなりつつあります。

 そうしたことも影響しているのでしょう、今は、すでに誰かが手掛けている研究には手を出さないという基本原則が怪しくなってきています。それでは独創性のある研究など望むべくもありません。

 私が学生の頃は、研究室でよくディスカッションをしました。学会の論文集を読み、片端から批判したりもしました。他の人の論文を絶対に褒めてはいけないルールがありました。そうしたことで私たちは、知らず知らずのうちに論文や資料を批判的に読む資質を磨いていったのだと思います。今の学生を見ていると、論文でも何でも簡単に信じてしまうようです。ウィキペディアを見てレポートや論文を書く学生もいるくらいです。よく言えば、素直ということでしょう。それはそれで結構なことですが、批判的な目を持つことも必要です。批判するためには、知識も必要です。

 私の研究室の卒業生は、化学業界に限らず自動車や電機、医薬品、製紙など多様な業界に行きます。さまざまな業界が、化学の学生が欲しいと言ってきます。特に有機化学の学生の就職は、裾野が広くなっています。今は自動車も電気製品も、その他の多くの製品も、合成樹脂などの有機化合物からできています。有機化合物なしには車も電気製品もつくれない時代になっています。しかも近年はいろいろな材料が有機化合物やポリマーにどんどん置き換わっていっています。今や有機化学が世界を支えているといっても過言ではないでしょう。

 研究の成功には、思いがけないものを偶然発見する運やセレンディピティが必要なこともあります。しかし、運やセレンディピティを見逃さずしっかりつかむには、日頃からの努力と準備が欠かせません。空気を読んで周りに合わせようとするのではなく、「ノーリアクション」が続いても決して諦めずに自分の本当にやりたいことを徹底してやりつくす。そうして化学の面白さ、醍醐味に没頭すれば、自ずと道は開けてくるに違いありません。

運をつかむには、日頃からの努力と準備が必要だ。

茶谷直人[ちゃたに・なおと] 大阪大学教授 環境安全研究管理センター長 1956年、兵庫県生まれ。工学博士。大阪大学大学院工学研究科石油化学専攻博士後期課程修了。大阪大学産業科学研究所助手、工学部助手、助教授を経て、2003年4月から大阪大学大学院工学研究科教授。2007年から大阪大学環境安全研究管理センター長。これまでに日本化学会進歩賞、グリーン・サステイナブルケミストリー賞文部科学大臣賞、名古屋シルバーメダルなどを受賞。今年、トムソン・ロイターにより、卓越した先端研究領域において活躍・貢献が認められる研究者として鳶准教授(とびすまもる)とともに選出された。学生時代はワンダーフォーゲル部に所属。今は休日に庭掃除や芝刈りをするのがリフレッシュ法という。

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